競馬

ちょっとした、競馬の話『アドマイヤメインとメイショウサムソンで固いってよ』

「馬連一点に5万円!?」

 

上田くんの声が水道橋ウインズに響き渡った。

 

「ちょっと、声がでかいよ」

 

ダービーが行われる東京競馬場のある府中市に住んでいる私が、この日はどういうわけか水道橋の場外馬券売り場にいた。

というのも、東京ドームで行われるナイター観戦の予定があったため、早めに水道橋に入ってダービーを見ようじゃないかというわけである。

 

「てか、全部でいくら買ったの?」

 

「んー、7万くらいかな」

 

「7万!?」

 

「だから声がでかいって」

 

私の購入した馬券に対して上田くんのリアクションがいちいち大きくて困る。
ちなみに上田くんは、大の巨人ファン。

 

「なんでそんなに??」

 

「だって当たるんだもん」

 

この日、私は絶対的な自信を持っていた。
正式に言うならば、1ヶ月前。
2006年4月29日の15:45頃からずっと自信を持ち続けていたのだ。

 

アドマイヤメイン。

4月29日に行われた青葉賞。
この勝ちっぷりを見て決めたのだ。

 

「ダービーはこの馬とメイショウサムソンで間違いない」

 

どちらが勝つのかと言われると難しいが、1着と2着がこの2頭であることは容易に想像できる。

それなら馬連にぶち込めばいい。
簡単な話である。

 

その日から私の『ダービー貯金』が始まった。

吸っていたタバコを一時的にやめ、吸いたくなったら適当な空き箱に小銭を入れる、いわゆる『つもり貯金』。

お客さんからチップをもらったら、それもその箱へ。

ムラムラして「風俗に行きたいなぁ」と思えば、それ相当の額をその箱へ。高級店ではないので大した額ではないけれど。

 

そうして貯まった、約7万円。
これを持って水道橋へ向かったのだ。

 

「へー。相変わらず変なところでストイックだよなぁ」

「でも当たるって分かってるならやるでしょ?」

「その自信が凄すぎるわ」

「上田くんさ、まだお金ある?」

「あるよ」

「最悪、野球のビール代とか電車賃とか借りていい?」

「それは全然いいけど。まさか買い足し?」

「そう!ちょっと買ってくるわ」

 

有り金勝負とは、まさにこのこと。
財布に入れて来たお金、ほとんど全額で馬券を購入した。

 

残金37円。

 

・メイショウサムソンーアドマイヤメイン 馬連5万
・アドマイヤメイン 単勝1万
・メイショウーアドマイヤ2頭軸三連単 約1万

 

どちらが勝つかは分からないけれど、4番人気ということでアドマイヤメインの単勝も購入した。

 

「4番人気って、みんな見る目なさすぎ」

「そんなに言うから気になってきたわ」

「買った方がいいよ」

 

 

WINSで見る初めてのダービー。
口ではああ言ってても、さすがに手が震える。

 

2003年。

やはり自信満々で迎えたジャパンカップにて、入魂の7万円を失っている。
なので今回の貯金作戦は2度目。
実はこのダービーは、そのリベンジも兼ねている。

今度こそ。

 

 

道中、予想していた通りアドマイヤメインが気持ちよさそうに逃げている。
競りかけてくる馬もおらず、鞍上の柴田善臣が上手くペースを操っているように見えた。

そしてそれを見るように、メイショウサムソンと石橋守。
まるで相手はアドマイヤメインただ一頭と言わんばかりのポジショニング。

よしよし、いい展開だ。

とにかくその2頭が真っ先にゴールを駆け抜けてくれればそれでいい。
出来ればアドマイヤメインが先の方がいいけど。

 

 

4コーナーを回って最後の直線。

日本屈指の長さを誇る府中の直線。
ここを逃げ粘るというのは至難の技だということを、競馬ファンは身に染みて理解している。
だからこその4番人気でもあったはず。

それでも、アドマイヤメインはやれるはず。

逃げ粘るではなく、逃げ切れ!

 

 

残り500m。
アドマイヤメインが少しずつ後続を引き離しにかかる。

 

残り300m。
一団となっていた馬たちがバラバラになり始めた。
各馬、バテてきた証拠。
それでもアドマイヤメインは逃げる逃げる。

 

残り200m。
後続はもう来ない!
アドマイヤメイン逃げ切り体勢!
と、思いきや外から一頭だけ並びかけてくる。

 

 

メイショウサムソン!!

 

さすがの皐月賞馬!
さすがの1番人気!
逃げ切りを図るアドマイヤメインに襲いかかる!

 

 

 

 

残り150m。
メイショウサムソンがアドマイヤメインを交わす!
盛り返せるかアドマイヤ!
突き抜けるかメイショウサムソン!
3番手のドリームパスポートはもう届かない!

 

2頭のマッチレース!!

 

「よおおおおーーーっし!!そのままだー!!」

 

水道橋ウインズに響き渡る物凄い大声。
もちろん私のものだ。

競馬場や場外馬券売り場にいると、この手の叫び声というのは頻繁に聞かれるものではあるが。

たまに異質なものもある。

 

「命でも賭けてるのか?」というレベルの叫び。

この時の私が発していたのは、完全なるそれであった。

 

メイショウサムソンがアドマイヤメインを交わし、手綱を緩めながらゴール。
皐月賞に引き続き、見事に二冠を達成。
そして2着にアドマイヤメイン。

 

 

「よーーーーーーーっしゃーー!!!よしっ!よしっ!よーーーーっし!!!」

ダービー初制覇を決めた石橋守騎手よりも派手なガッツポーズを決める。

 

「すげえ!すげえ!!やったな!!」

隣で喜ぶ上田くん。

 

「よしっ!よしっ!!」

あまりの興奮で上田くんの祝福に応えられない。
レースの前よりも手が震えているのがわかる。

 

 

払い戻し総額は67万円を超えた。
3着のドリームパスポートを含めた3連単も的中していたのである。

とはいえ正直、金額云々よりも狙いを定めて的中させたことに対する喜びが大きかった。

初めて入れられた額に戸惑ったのか、二つ折りの財布が上手く折り曲がってくれない。

 

 

 

その後の野球は、ロッテの一方的な展開となった。
西武から移籍してきた豊田が打ち込まれ、火だるまになっていた。

 

「早いけど、行こっか」

巨人ファンの上田くんを気遣って6回くらいでドームを後にする。

そして目の前の外堀通りで捕まえたタクシーに、こう告げた。

 

「新宿の歌舞伎町までお願いします!」

 

 

 

【第73回 日本ダービー】
2006年5月28日

1.メイショウサムソン 石橋守

2.アドマイヤメイン 柴田善臣

3.ドリームパスポート 四位洋文

4.マルカシェンク 福永祐一

5.ロジック 幸英明