ちょっとした、競馬の話『炸裂する音速の末脚と牝馬の挑戦』

「あれ?もしかして徹夜??」

「うん、地元の連中と。上田くんも?」

「そうそう、部活のやつらと一緒にね」

 

思いもよらない場所で顔を合わせた。

コンビニに夜食を買いに行こうと立ち上がり、行列の合間を縫って歩いているときに上田くんの顔を見つけたのだ。

 

「徹夜で並ぶのなんて初めてだよ」

「おれもおれも」

 

とても考えられないシチュエーションでの遭遇に、お互い高揚しているのがわかる。

 

「で、なに買うの?」

「やっぱりダンスかなぁ」

「イシノサンデーは?」

「うーん、抑えで一応って感じ」

「じゃあビワハイジは?」

「買わない買わない!」

「だよね」

 

日頃の同級生という関係性ではなく、競馬ファン同士として交わした会話。
これと同じような会話が一年を通して最もなされているであろう、週末である。

 

 

第63回 日本ダービー。

この年の注目は、なんと言っても武豊。

デビューから10年目を迎えた天才ジョッキー。
これまで数々の栄光を手にしてきた若き名手だが、どういうわけか日本ダービーには縁がない。

 

なんて。

たったデビュー10年目で『縁がない』などと言われること自体が異常なのだが。

でもそれこそが、武豊。

同じ時期にプロ野球界を賑わせていたイチローが『打てないことでニュースになる』選手であるのと同じで、武豊は『勝てないことがニュースになる』騎手なのだ。

 

そんな”ユタカ”の相棒は、本命視された皐月賞を回避し、復帰戦のプリンシパルステークスで大楽勝したダンスインザダーク。

前年には姉のダンスパートナーをオークスの頂きへとエスコートした手腕で、弟もダービー馬に導いてくれるだろうというのが大方の見方。

その期待感が『1番人気』という数字に表れている形である。

 

弟と言えば、2番人気のロイヤルタッチ。

こちらは3年前(1993年)のダービー馬、ウイニングチケットの弟。
名手・柴田政人に初めてのダービー制覇をもたらした馬である。

 

そして私はそのレースとウイニングチケットが本当に大好きで、繰り返し繰り返し何度も見ていたのだ。

なのでその弟であるロイヤルタッチに肩入れする気持ちはあって当たり前。
是非とも兄弟制覇を成し遂げて欲しい。

ユタカのダービー制覇よりもそちらの方を望んでいたのである。

というわけで、私の本命はロイヤルタッチ。

ユタカのダービー勝利なんて時間の問題。
その後2勝でも3勝でもするようになるんだから。

でもさすがに5勝はどうだろう?

 

そんな中、また違った意味で注目している2頭がいた。

まずはビワハイジ。

牝馬にしてダービー挑戦という異例のローテーションに、私の頭の中は「???」で埋め尽くされていた。

確かに昨年の阪神3歳牝馬ステークスでは、あのエアグルーヴを完封。
それでもすぐにチューリップ賞では逆転され、桜花賞は15着に大敗。

そんな牝馬がダービー挑戦。
これには応援以前に「なんで??」という疑問しか浮かばなかった。

そもそも牝馬でダービー制覇なんて考えられない。
勝ったヒサトモもクリフジも戦前の話。
そんな化け物みたいな馬は今後もう出るはずがないのだ。

 

そしてもう1頭の気になる馬。

 

まさかその馬が先頭でゴールを駆け抜ける瞬間を目の当たりにするとは思わなかった。

 

 

フサイチコンコルド。

なんとこのダービーが3戦目というキャリアの浅さ。

【新馬戦→すみれS→日本ダービー】の異例過ぎるローテーションに、こちらも競馬ファンの頭の中は「???」で埋め尽くされていた。

気にはなるけど、買うには至らない。

 

「・・・まさかね」

 

そのまさかが起こるのが、競馬の難しさであり面白さなのである。

 

直線力強く抜け出す、武豊とダンスインザダーク。
私の本命ロイヤルタッチは伸びが悪い。

 

「これはユタカだ!ついにユタカがダービーを勝つんだ!」

 

誰もがそう思った、その刹那。

外から並ぶ間も無くダンスインザダークを抜き去ったのが、フサイチコンコルドだった。

 

「・・・え!?」

 

徹夜で並んだ甲斐があり、ゴール手前の絶好ポジションでレースを見ていた私と友人たち。

目の前で起きている現実を受け止めきれない。

あの・・・3戦目の馬??

嘘でしょ・・・??

 

ただ理解出来ていたのは、武豊が掴みかけた悲願がゴール直前で打ち砕かれたということだけだった。

 

「外から、音速の末脚が炸裂する!フサイチコンコルド!」

 

フジテレビ、三宅アナが残した実況。
藤田伸二のガッツポーズと合わせて、競馬ファンの間で語り継がれる名シーンである。

 

引用 www.youtube.com

 

翌日、上田くんと教室で顔を合わせた。
競馬ファン同士ではなく、ただのクラスメイトとして。

 

「昨日当たった?」

「ぜーんぜん。てか本命ロイヤルタッチだったし」

「そっかー。おれダンスから行ったけど、それでもフサイチコンコルドは買えなかったよ」

「しょうがないね」

「ていうかさ、ビワハイジはどうだったの?」

「13着じゃなかったかな?」

「へー、意外とがんばったんだ」

「そうだね」

「でもやっぱり牝馬でダービーは無謀でしょ」

 

すっかり話のオチに使われているビワハイジだが、後に日本競馬史に名を残す大繁殖牝馬になることを2人はまだ知らない。

 

第63回日本ダービー。

・徹夜で並ぶ
・キャリア3戦目でのダービー制覇
・牝馬のダービー挑戦

私にとっていくつもの『初めて』を経験させてくれた、思い出深いこのレース。

そして、

『競馬は何が起こるかわからない』

そんな楽しさを教えてくれた、フサイチコンコルド。
常識とは、覆されるためにある。

 

「これは本当に牝馬がダービーを勝つ日が来るかもしれないな」

 

などと思いかけたが。
これはさすがにあり得ないと、すぐにかき消した。

 

第63回 日本ダービー
1996年6月2日

1.フサイチコンコルド 藤田伸二
2.ダンスインザダーク 武豊
3.メイショウジェニエ 河内洋
4.ロイヤルタッチ 南井克巳
5.サクラスピードオー 蛯名正義

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