令和元年

【令和元年9月 その2】美味しいものを作って、人を笑顔にする仕事。

焼肉店に、父と子で食事に来る。

父は40代〜50代くらい。
子は思春期真っ只中といった感じの男子高校生。

2人で外食するくらいなので関係性は悪くはないのだろうけど、会話は一切なし。

父はメニューを見つめ、子は仏頂面でそっぽを向く。

父が「何か頼みたいものあるか?」という問いかけをするも、子は仏頂面のまま首を横に振る程度。

それも想定内といった感じで、父は店員を呼び、ファーストオーダーを重ねていく。

 

キムチ、タン塩、豚バラ、カルビ、ホルモン、大ライス。

焼酎の水割りを飲みながら、父が焼く。

子は水を飲み、たまにキムチをつまみながら、まるで他人事のようにその様子を眺めている。

もちろん仏頂面で。

 

最初の牛タンが焼きあがった。

父はそれを皿に乗せてやり、子は何も言わずごまダレを絡めて食べる。

子の仏頂面が崩れかけたのを、店主は見逃さなかった。

 

他テーブルのオーダーが無かったため、注文の品々をリズミカルに次から次へと出していく。

豚バラが焼きあがった。

おろしたレモンと塩で味付けされた豚バラ肉をこんがりと焼き、そこに特製のネギを乗せて食べる。

唐辛子などで味付けされた特製ネギは、この店を支える屋台骨と言っても決して過言ではない。

 

一口目のリアクションを重要視している店主が、気づかれないように子を見つめる。

父が乗せた豚バラ肉に、特製ネギを乗せて豪快にかぶりついた。

 

父「どうだ?」

 

子「うまい」

 

狭い店内。
2人の短いやり取りは、しっかりと店主の耳に届いていた。

とはいえ、もし周りの話し声で聞こえなかったとしても、子の「うまい」の一言は店主にしっかりと伝わっていたであろう。

 

なぜなら、仏頂面から笑顔に変わっていたから。

 

子はタレ味のカルビに誘われるよう、大盛りライスをおかわり。
父はそんな様子を満足気に横目で見ながら、焼酎の水割りを煽る。

 

食べる量と比例して、笑顔と会話が増えていく。

そして食事の終盤には、厨房にいる店主も驚くほどの笑い声がこだまする。

 

美味しいものは、人を笑顔にする。
笑顔は円滑なコミュニケーションを生む。

提供した商品がその一役を担うほど、幸せなことはない。

“冥利に尽きる”というのは、まさにこのこと。

 

そんな仕事が出来たらいいね。