3000文字チャレンジ

『雑草は、踏まれた分だけ立ち上がる』3000文字チャレンジ 第3弾

40歳になっても、まだ草花に興味が持てない。

 

自信を持って答えられると言えば、桜とひまわりとチューリップとタンポポ。あとは不安。

 

でも雑草は分かる。

 

雑草は見た瞬間「ああ、これは雑草だろうな」って思うから。
でも雑草一つ一つの詳しい名前とかは分からない。

雑草は雑草。

 

もし雑草の中に名のある高貴な草が混ざっていたら、私はそれに気がつけるのか。恐らく気づけない。

なぜなら、草花に興味がないから。

 

先日、店にタクシー運転手時代の同僚が来てくれた。辞めて10年になるが、ここ最近LINEをキッカケに繋がりが生じて店に来てくれるようになった。ありがたい話。

 

この時、初めて『タクシー運転手になる以前の話』をした。

その人の過去と、私の過去。

同期として研修からずっと一緒にやって来たのだが、過去の話だけはした事がなかった。

その人に限らず、他の人たちともそのような話は一度たりともした事がない。

 

私は24歳の時にタクシー運転手になった。

嫌で嫌で仕方なかったサラリーマンを逃げるように辞めて、文字通り転がり込むように転職した。

 

社会の掃き溜めと称されることもある仕事。

毎週のように入ってくる”年老いた新人たち”は、少なからずとも何かしらの背景がある。

そんな中に私のような、大学卒業2年目の24歳男がいる。これを異質と呼ばずになんと呼ぶのか。

しかし周りはそんな異質に対して、見事なまでの対応をしてくれてた。

 

触れない優しさ。
聞かない気遣い。

 

雑草は雑草を知る。

 

普通なら「なんでこんなところにいるの?」と、誰しもが言いたくなるであろう存在にも関わらず、誰一人として言わない。

それは私のためを思ってなのか、それとも自己防衛から来るものなのかは分からないが。

とにかく私としては、そんな周囲に感謝しか無かった。

 

 

 

 

「ねえねえ、運転手さん。若いよね?なんでこんな仕事してるの??」

 

お客さんからは毎日のように聞かれた。

私のメインの営業エリアである大手町・丸の内で働くカッコいいビジネスマン。

ビシッとしたスーツ、ビジネス用語を用いた会話、オフィスで飲んでいたであろうコーヒーの臭い。

この3点セットこそが、高貴な草花の証。

 

そして物珍しげに雑草を見る、好奇な目。

 

タクシーに乗り込む瞬間に驚きの表情を浮かべ、しばし同乗者同士で歓談。
そして車内の雰囲気が和んだ辺りで、

「ねえねえ、運転手さん。若いよね?なんでこんな仕事してるの??」という質問。

これがお決まりのパターンだった。

 

 

高貴な草花は、雑草を知らない。

 

私が何を言われても、それは仕方ない。
自ら選んだ道だったし、それを覚悟で足を踏み入れた世界だったから。

 

でも、『こんな仕事』という表現は本当に嫌いだった。

嫌い過ぎて嫌い過ぎて、今思い出しても怒りに震えるくらいに嫌悪感を覚える。

 

しかし私は満面の笑みと、過剰なほどのヘラヘラ感を全開にして

「いやあ、色々あるんですよ〜」

と答えることにしていた。

 

すると大抵こう来る。

「運転手さん、まさか大学出てないよねー?」

なので私はこう答える。

 

「当たり前じゃないですか。出てたらこんなことしてませんって」

 

この時ばかりは本当に心苦しかった。

決して裕福とは言えない家にも関わらず、無名とはいえ一応大学まで卒業させてくれた両親の恩を仇で返すかのような行為だ。

「お前が”そんな仕事”を選んだからだ」と言われたらそれまでなんだけど。

 

 

他にも、酔っ払ったお客さんにはよく椅子を蹴られた。

 

黄色信号で止まっただけで蹴る人。

ろれつが回っていないため聞き取りづらく、道を聞き返したら蹴る人。

乗車した瞬間から意味も分からず蹴り続ける人。

身に覚えのない罵声を叫びながら全力で蹴ってくる人。

 

特にこの忘年会シーズンの12月は本当に色々なお客さんがいて、それはもう大変な経験をさせてもらった。

今となっては感謝の一言。

 

 

雑草は、踏まれても踏まれても立ち上がる。

 

それなら私だって、蹴られても蹴られても立ち上がる。

 

 

 

 

ある日の昼間。

甲州街道の笹塚駅付近から乗ってきたお客さん。
どこからどう見ても、その筋の怖い人。
しかも確実に上位ランク。

よく「一番タチが悪いのは下っ端のチンピラで、上になると落ち着いてる」みたいな事を耳にするが。

 

全然。

 

超ド級で怖い。

 

「西武新宿の駅のとこまで行ってくれるか?」

「はい、かしこまりました」

 

要は、歌舞伎町。

 

行き先を告げると、男はすぐに電話を始めた。

これに私は、心から安堵した。
こんな大物の相手なんてしてられない。

出来れば降りるまでずっと電話してて欲しいくらい。

 

 

「おう、俺だ」

 

 

「例の件、どうなった?」

 

 

「そうか、捕まえたか」

 

 

 

捕まえた??

 

捕まえたって、、、何を??

 

猫かな?

 

この親分が可愛がっていた猫ちゃん。
その猫ちゃんが逃げていたのを部下が発見したのかな?

 

いい話。
よかったね。

 

 

 

「いいか、とりあえず椅子にでも縛っておけ」

 

 

猫を??

 

椅子に??

 

ダメだよー。
そんなことしたら猫ちゃん可哀想よー。

 

 

 

 

「とにかく俺が行くまで、まだ手は出すな」

 

 

まだ・・・手は出すな??

 

ははーん。

 

 

・・・猫じゃねーな。

 

 

これ、あれだ。

怖いやつだ。

ハードボイルドな世界観のやつだわ。

 

 

「一応他の連中にも連絡して全員集めておけ。分かったな」

 

電話が終わった。

まだ青梅街道にも入ってないのに。

しかも内容がエグかった。。。

 

 

「なあ、運転手さん」

 

「は、はい!!!」

 

「タバコ、いいかい?」

 

「ももも、ももももももももも、ももも、もちろんです!」

 

あー、早く着かないかなー。
全部の信号無視してやろうかなー。

もう話かけて来ないで欲しいなー。

「なあ、運転手さん」

 

「は、はい!!!」

 

「俺のことヤクザだと思ってるだろ?」

 

「えっ、、、いやっ、、、、うーーーーん、難しいところです!」

 

「ふふ、まあいいや。それより運転手さん、なんでこの仕事やってんだ?まだ若いだろうに」

 

「えっと、まあ色々ありまして」

 

「そりゃそうだろう。その色々を聞いてるんだ」

 

「あの、、、サラリーマンが続かなかったんです。たった1年で嫌になってしまいまして」

 

「それでとりあえず、タクシーってわけだ」

 

「はい。でも最初はとりあえずの気持ちで入りましたけど、今は本当に楽しくて好きな仕事です」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「なあ運転手さん」

 

「はい」

 

「人生って色々あるからよ。絶対に諦めるな。どんなことでもいい。こうなりたいとかああなりたいとか、とにかく目標を持って頑張れ」

 

「はい」

 

「今は運転手さんのことを見て笑ってる奴もいるだろうけど、絶対に負けるなよ」

 

「はい」

 

「俺から見たら立派なもんだ。いくつになっても立ち止まるな、上を見続けろよ」

 

「・・・はい」

 

 

 

「雑草同士、これからも頑張ろうな」

 

 

 

「・・・・・」

 

「おっと、ここでいいぞ」

 

「はい、、、1620円になります」

 

「じゃあ、これで。釣りはいらねえからさ」

 

「いえ!そんな、1万円なんてさすがに!!」

 

「いいんだよ。こっちこそ悪かったな。余計な詮索して」

 

「いえいえ。でも・・・」

 

「それじゃあ、俺がこれからどこに何をしに行くか。さっきの電話の続き、教えてやろうか?」

 

「い、いや!それは、、、」

 

「ふふ。それじゃあな。頑張れよ、運転手さん」

 

「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 

 

この一件から15年。

 

私は、未だ雑草のままである。

 

高貴な草花に憧れる気持ちも無くはないが、雑草として上を見続ける生き方も嫌いじゃない。

周りの雑草仲間といるのも楽しくて仕方ない。
切磋琢磨し、励まし合う。

 

そしてもしそんな雑草の中に、名のある高貴な草のような人が混ざっていたら。

私はすぐそれに気が付き、飛躍を願う。

「あんたはこんな場所にいないで、さっさと上に行けよ」って。

 

それこそが私を鼓舞してくれた、あの日の親分に対しての恩返しだと思っているから。

 

 

今年で40歳。

いい加減ぼんやりと上を見ている年齢では無いのかもしれないが。

 

今まで散々踏まれ、蹴られて来たことを考えると。

とてもじゃないが、まだまだ足りない。

 

雑草は、踏まれた分だけ立ち上がるのだから。