タクシー話

24歳で脱サラしてタクシー運転手になった話12 ど緊張の初乗務!の巻

どうも。
元タクシー運転手ブロガー、こぼりたつやです。

 

気が付けば4月になってました。
東京の桜もいつの間にか散ってます。

春ですね。

新社会人の皆様、頑張って下さい。

 

ワクワクドキドキ初乗務

 

初乗務の日。

 

これはもう、死ぬほど緊張しましたね。
私、約40年間生きてきましたが。
この日ほど緊張したことは他に無いです。

だって自宅周辺の道しか知らない24歳の若造が、タクシー運転手をやるんですよ?

ほとんど行ったことのない東京23区の道を、お客さんを乗せて走らないといけないんですよ?

 

自分で選んだ仕事とはいえ、さすがにあまりの緊張で吐きそうになってました。
営業所を出る時の不安な気持ち、未だに覚えてます。

今考えてもゾッとする。

よくやってたなー。怖い怖い。

 

では、そんな極限状態の24歳タクシー運転手の奮闘ぶりを覗いてみましょう。

 

乗せたくない!が素直な気持ち

 

「わかんねー。ぜんっぜん、わかんねぇ〜」

 

そんな独り言と共にタクシーを走らせる。

 

走っている通りの名前はもちろん、自分が東西南北どちらを向いているのか。どこに向かって走っているのか。

何一つ、わからない。

 

営業所を出て、まだ10分も走っていないのに。

 

一応地理試験なんてものは合格しているはずなのだけど、机上の空論とは良く言ったもので。

今のところ、役に立つ気配は全く無い。

百本近い幹線道路から、数百ヶ所に及ぶ都内の名所や交差点を暗記したにも関わらず。

緊張からか、今では完全に白地図と化してしまっていた。

 

 

「来るなよー、お客さん来るなよー」

 

 

もはや稼ぎだとか売上だとか。
そんなことが頭にあるはずもなく。

とにかく「誰も乗せずに1日を終えたい!」という気持ちしか無かった。

 

どう考えても無事に仕事をこなしているイメージが湧いて来なかったのである。
道を知らずに怒られてるシーンしか浮かばない。

 

だから乗せない。
今日じゃない。
とりあえず今日は地図を見ながら下見みたいな感じで走ろう。

 

などと思っていたポンコツルーキーの願い虚しく。

その時はやって来るのである。

 

 

ついにその時がやって来た!?

 

ふと左前方を見ると、手を挙げている御婦人が一人。

 

「あれ?車道に人がいる。しかも手をあげてる?」

 

いやいや。
そんなわけがない。

一旦目を逸らして、もう一度見る。

さっきよりも挙手の角度が良くなってる。

 

まさかこの婦人。

 

完全にタクシーをつかまえようとしている!?

 

見たところ、前方にも周囲にも一般の車しかいない。

ということは・・・

 

「もしかして、俺!?」

 

そう。
婦人は完全にこのタクシーをロックオン。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!」

 

出川哲朗でもこんなに多発しないと思うが、ホントにヤバイ。

どうする?どうする?どうする?

 

来た。

とうとう来た。

 

タクシー運転手にこそなったものの、なんだかんだで自分がお客さんを乗せて走る事なんて無いと思ってた。想像すらしてなかった。だって無理だもん。道知らねーもん。出来るわけない。

 

嗚呼、それなのに。
今まさにその時を迎えようとしている。

初めてお客さんを乗せる、この時を。

 

 

さあ、覚悟を決めて!

 

 

 

「ごめんなさい!やっぱり無理〜!!」

 

 

 

 

呆気に取られた御婦人が、まだこっちを見ているのがバックミラーで分かる。

 

「ごめんごめんごめんごめんごめんごめ〜ん!!マジごめん!」

 

止まるどころか、キックダウンで加速してしまったのだ。

東海道新幹線「のぞみ」が三河安城をスルーするかの如く、御婦人を通過。

 

もちろん会社やタクシーセンターにバレたら、超ド級の大目玉を喰らうであろう白昼堂々の乗車拒否。

でも、この時ばかりは仕方ない。

まだちょっと早かった。
もう少し、心の準備が欲しかっただけ。
神様もう少しだけ。

仕方ない。これは仕方ない。
などと自分に言い聞かせる。

 

あの婦人が会社にチクらない事を願いながら、とりあえず落ち着こう。

 

 

はじめてのひと

 

「次は乗せるぞ〜。次は乗せるぞ〜」

念仏のようにブツブツ言っていたその時。
再びこの車に向かって手を挙げている人が。

 

「うわぁ、出た!」

 

一瞬たじろいだが、よくよく見たらデビュー戦としては理想的。

 

初めてだろうが、道を知らなかろうが、笑い飛ばしてくれそうなオーラを持つおばちゃんだった。

 

何事も初めては年上に限る。

 

一発深呼吸をして、ハザードを出し、スムーズに車を路肩に寄せる。

「よしっ!」

気合いを入れ、ドアを開け、いよいよ初めての接客。

 

 

 

「えっと、あの、えっと、は、はふ、はひ、初めてなんですけど。どどど、ど、どうしましょう?」

 

 

 

なんだそれ。

我ながら情けない。
この慌てっぷりと稀に見る愚問。
なにが、どうしましょう?だ。

 

しかしこのおばちゃん。

「うふふ、大丈夫よ。ちゃんと教えますから」

とのこと。

 

 

 

女神だった。

 

 

 

この時の安堵感を超えるものは未だに無い。
本当にありがたかったし、なんかちょっと興奮した。

一気に緊張がほぐれ、運転に集中する。

途中、一言二言やり取りはあったかもしれないが、そんなもの覚えているわけがない。

 

目的地は、吉祥寺駅。

何度も足を運んだ事はある場所だが、
住宅街を通る最短ルートなどわからない。

 

「次の角を右で、2つ目の信号を左にお願いね」

「はい、かしこまりました」

他人に指図される事が、こんなにも心地好いとは知らなかった。

 

 

 

・・・委ねよう。

 

 

 

今はとにかく、この聖母に全てを委ねよう。
ボクは身を預けて乗ってもらうだけ。

 

ずっとおばちゃんを運んでいたい。
ずっとおばちゃんを乗せていたい。

 

・・・むしろおばちゃんに乗りたい。

 

そんな気持ちにさせられる。

 

 

しかし。

「はい、じゃあこの辺で大丈夫よ」

とうとう訪れてしまった、おばちゃんとの別れの時。
素敵な時間はあっという間だ。

 

 

「本当にありがとうございました!」

「うふふ、いいのよ。それで、おいくらかしら?」

 

料金メーターに目をやる。

 

 

 

「はにゃ??」

 

 

 

金額が表示されているはずの画面が真っ暗。

料金メーター、まさかの押し忘れ。

 

 

テンパるにも限度がある。

 

「あ、、えっと。どうしよぅ、、、、」

 

一気に汗が噴き出し言葉に詰まっていたところで。

 

おばちゃん。何も言わず、2000円をスッと差し出してくれた。

 

「いつもこのくらいだから大丈夫よ。これからがんばってね」

 

「いや、でも」などとまごまごしているうちに、おばちゃんは車から降りて歩いて行ってしまった。

 

「あ、あ、ありがとうございました!」

 

 

2003年8月8日(金)

 

ちなみに御察しの通り。

おばちゃんの乗車距離は、どうやっても1000円以内で収まる距離。

ありがたい話です。

 

そしてそして。

この3年後。。。

あの日と同じ場所でお乗せしたお客さま。

 

「吉祥寺駅までお願いします」

「はい、かしこまりました」

 

・・・何事も無く到着。

 

「おいくらかしら??」

「いえ、お代は結構です」

「え?どうして??」

 

「実は私、3年前にメーターを押し忘れた新人運転手です!」

 

「え、、、あら!あの時の!!」

「はい!おかげで大きくなりました!」

 

 

なーんてね。

 

 

こんな事が起きれば良かったんですけど。
もう出会えることは無かったです。

 

わりと同じお客さんを何度も乗せることはあるんですけど、聖母さんはこの時限りでした。

出来ることならもう一度お乗せしたかったなぁ。

 

そんな初乗務の思い出。

 

 

それではでは、こぼりたつやでした。

 

 

次回は→24歳で脱サラしてタクシー運転手になった話13 怒りの首都高、かっ飛ばす!の巻