タクシー話

24歳で脱サラしてタクシー運転手になった話⑩ ヤバそうな女性!の巻

どうも。
元タクシー運転手ブロガー、こぼりたつやです。

 

10回目ということで、刺激的なエピソードを持ってきました

 

さてと。

 

今回お話しするエピソードはですね、私の数あるタクシー話の中でも屈指のインパクト。

「あの話、いつしようかなー」と、思いながら温めてたやつです。

でもまあ別に温存したところで、おでんみたいに味がしみるわけでもないので放出します。

 

久しぶりに「昔の文章引用パターン」を使っていきますね。8年ぶりくらいに読んで、自分で笑っちゃいました。よく書いてたし、よくこんな経験をしてた。自分で自分を褒めてやりたい。

そんなお話です。

 

では、どうぞ。

 

 

迎車で向かった夜の高級住宅街。待っていたのは老紳士・・・

深夜の割増時間が始まった23時過ぎ。

某高級住宅街のマンションから無線配車を受け、迎車メーターのボタンを押してすぐさま向かうことに。

 

「大金持ちが住む場所」と言っても過言ではない場所。過去にもこの近辺で有名人や芸能人を幾度と無く乗せてきた。

 

指定の場所に到着すると、老紳士が一人。

 

パッと見て「物凄く偉い人」というのがわかった。

まあもちろん、高級住宅街のマンションという先入観も手伝ってはいたのだが。
とにかくどこかの社長さんなのか、会長さんなのか。はたまた政治家なのか。そうそうお目にかかれないような”大物的雰囲気”が感じられた。

 

なんでそんな人がわざわざ1人で外に出て待ってるのだろう?

大体がインターホンを押してから出てくるのに。

なんて違和感を覚えつつ。

 

「◯◯様ですか??」

「ああ。今、連れて来るから」

 

とだけ言い残し、マンションへ入って行った。

 

 

連れて来る??

 

 

あの人が乗るんじゃないんだ。

 

 

この時ボクが乗っていたタクシーは「黒タク」といって、ワンランク上のサービスを売りとしている車だった。

見た目は文字通り、ハイヤーの様に黒塗り。
車種も一般タクシーよりランクが上。
もちろん乗務員もそれに見合うよう、地理に明るく、接客接遇にも優れていなければならない。

 

そのサービスの一つとして「無線配車の際には、お客さんを車外で待ち、乗車の際にドアサービスをしなければならない」というものがある。

乗車の際に頭をぶつけない様に手でガードして、乗り込んだのを確認後、静かにお閉めする。

 

さらに降車の際にはお客さんよりも素早く車を出て、ドアを開けるサービスも義務付けられていたのだが。

これはハッキリ言って時間効率的にも安全的にも無駄だらけだと感じていたので、私はほとんどやらなかった。お客さんも求めていなかったし。

 

 

恐怖を感じながらも乗せなきゃならないのが、この仕事

 

5分ほど車外で待っていると。

 

 

 

明らかに様子のおかしい泣き声が、マンション内から近付いて来た。

先程の老紳士が、一人の女性を連れて来たのである。

 

いや、正確に言うのなら。

 

 

 

 

『無理矢理引っ張って来た』だ。

 

 

そしてボクは、その女性を見てゾッとした。

 

 

 

「この人を、、、、乗せるの??」

 

 

 

目の焦点は合っていない。

ヨダレはダラダラ。

足元はおぼつかないどころか、腰から砕けてまともに立てない。

さらに泣き叫び方も尋常じゃない。
狂った様に泣いて、叫んでいる。

 

 

「パパ!パパ!パパ!帰るのイヤ!イヤ!!」

 

 

言葉のイントネーションから、どうやら外国の方だと思われる。

 

顔は、、、
美形のような気もするが、泣き顔でぐしゃぐしゃになってるから正直よく分からない。

 

「あの、、、大丈夫、、、ですか?」

 

「ああ。ちょっと飲み過ぎてしまったのか、酔ってるだけだ。心配は無い」

 

 

 

嘘だ。

 

 

 

キャリアが浅いとはいえ、タクシー運転手。
それまで数えきれないくらいの酔っ払いを乗せてきたけど。。。

 

これは明らかに、酒の酔い方じゃない。

 

では、なんなのか?

 

考えれば考えるほど怖くなって。
考えれば考えるほど乗せるのがイヤになった。

 

そんなボクを尻目に、常軌を逸したくらい泣き叫ぶ女性を無理やり後部座席に詰め込んでいる。

 

 

「さすがにこの状態でお一人だけの乗車は不安というか、、、」

 

 

「大丈夫だ」

 

 

「そうは見えませんけど」

 

 

「早く出してくれ」

 

 

「ホントに大丈夫なんですか?」

 

 

「いいから早く出せ!」

 

 

「いや、でも明らかにっ・・・」

 

 

「早く!」

 

 

助手席に1万円札を2枚投げ込み、発車を見届けることなく老紳士はマンションへと戻って行った。

 

 

女はまだ泣き叫んでいる。

しかも尋常じゃないくらい。

 

 

 

地獄だ。

 

 

 

狭い車内に響き渡る、常軌を逸した泣き叫び声

ボクは不安やら恐怖やらで、出発前から早くも気落ちしていた。

 

「この状態の人と、どれだけ一緒にいなければいけないんだろう」

「帰る場所、分かってるのかな?」

「てかそもそも、、、帰る場所、あるのかな?」

 

とりあえずジッとしていても仕方ない。
なんとなく走らせながら、とりあえずの目的地だけでも聞き出そう。

 

助手席に投げ込まれた2万円。

普通に考えれば美味し過ぎる仕事だが。
この2万円はどう出るか。
吉なのか、凶なのか。

 

 

「とにかく無事に終わりますよーに」

 

 

ボクは祈るような気持ちで車を出した。

 

 

思っていたよりも静かな道中。目的地に向かって順調です

結局、行き先を聞き出せたのは15分ほど経ってからだった。

 

最初は目的地どころかまともに会話すら出来ないような状態だったが、

「パパはもういませんよ」
「これから貴女のおうちへ帰るんですよ」
「パパが呼んでくれたタクシーに乗ったんですよ」
「おうちの場所わからないから教えてね」

これを何度も何度も説明することで、少しは平静を取り戻したのか。相変わらず様子はおかしいままだけど、泣き叫ぶ事だけはやめてくれた。

 

 

とりあえず助かった。

 

 

狭い車内で延々と泣き叫び続けられたら、こっちまで気が狂う。

 

 

江戸川区小岩。

東京都の東端と言える、千葉寄りの場所が目的地だった。

 

これを聞き出すだけでも一苦労。
もう疲れた。

とはいえ小岩なら、大通りをほぼ真っ直ぐ行けばいいだけなので運転は非常にスムーズ。

金額も謎の老紳士が投げ込んでくれた2万円で、文字通りお釣りが出るくらいの距離。

お金が足りずに途方にくれるという最悪の事態は免れそうで良かった。

 

もちろん目的地に向かう間も、後部座席では「あ~」とか「う~」とかいう唸り声は絶好調。

しかし慣れってのは恐ろしいもので、もはや全然気にならない。ヨダレでシートが汚されていないかだけが心配だったけど。

 

 

時折「ねえ、パパは?パパはどこ?」と、聞いてきたので。

ボクは「パパ帰っちゃいましたよ~」と、やさしく答えてあげていた。

その度に「イヤだイヤだ」と寂しそう。

 

目的地付近到着!ようやく解放されると思いきや・・・

小岩駅付近。

 

相変わらず唸りっぱなしの女性に尋ねる。

 

「小岩駅の近くですけど、どの辺ですか?」

 

女は唸りながらも案内を始めてくれた。

 

 

 

が、これがデタラメばかり。

まあね。

一筋縄ではいかない事くらい想定済み。
普通にお酒で酔っ払ってる人ですら手間取ることが多いのだから。
(てかこの人も普通にお酒)

 

とにかく家の近くまで来ている事は確からしい。

 

でも、曲がれば行き止まり。

また曲がっても行き止まり。

 

かと思えば、元の場所。

 

 

それを何度繰り返しただろうか。

さすがにイライラして来たため、

「この辺なんですよね?だったら降りて、ボクも一緒に探しますよ」

入り組んだ住宅街だったこともあり、思い切って2人で車を降りる事に。

 

車の方向転換等が面倒だったことはもちろんだったが、それより何より。

狭い空間の中に唸る女と二人っきりでいる事が本当に耐えられなかったから。

とにかく外気に触れたい。

 

 

ついに到着!やっと帰れる!?いやいや、そんなに甘くない

車を降りた後は、意外にも素直に自宅探しに専念してくれている。
さすがにまだフラフラではあるものの、何とか自力で歩いてくれていた。

 

ボクはその後ろを釣り銭箱を抱えながら、くわえタバコでついて行く。

実車中、ましてや接客中の喫煙など決してあるまじき行為だろうけど。この時ばかりは仕方ない。

 

ちなみに。

 

皆さんも考えているであろう「置き去り」にするという手。
これは使えない理由があった。

 

 

無線配車。

 

どの車が老紳士のマンションに向かったのか。
会社がすべて把握しているため、雑に扱えないのである。

置き去りにした上に何かあったら、ボクのクビは確実に飛ぶ。 

 

 

警察に相談。

 

深夜のタクシーでは、起きない酔っ払いのお客さんなどで度々お世話になる。

もちろんこれも手立てとしては有効だが、

「この人は警察に連れて行ってはいけない気がする」

という、せめてものやさしさ。

 

 

そんな様子で15分ほど探し回っていると。

 

 

 

「あった!」

 

 

 

初めて覇気の込められた声を聞いた気がする。

突き当たりの一軒家を指差し、ボクに微笑みかける。

 

まさかの一軒家!!

しかもいい家!!

 

「本当に???」

と、確認を取りたかったが。

 

 

 

その時にはもうすでに、女性は猛烈な勢いで駆け出していた。

 

 

 

 

 

そして、派手に転んだ。

 

 

 

 

 

猛烈な勢いを丸々利用して、思いっきり転んだ。

 

その際に、受け身なしで顔面から接地するのが後ろからでもハッキリと見えた。

 

 

 

 

 

 

これは死んだ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

さすがに心配になり、駆け寄って顔を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

ホラーだった。

 

 

 

 

 

額から血が吹き出し、
さっきまでとは異質な唸り声を上げている。
長い髪の毛もベタベタでボサボサだ。 

 

「ああ、これでまた時間食っちゃうよ」なんて思ったが。

意外にもスッと立ち上がったので驚いた。

 

「いたい。いたーい。あれ?血?血、出てる?たくさん出てる?」

「いやいや、大丈夫です。ほんのちょっとだけ」

 

とにかくもう、こっちは早く帰りたい。

貴重な深夜割増営業タイムなのに。
この女性と過ごしただけで終わってしまう。

だから完全なつゆだく状態だったが、今日に限っては「ちょっと」の判定ラインを甘くする。

 

「本当に?それじゃ大丈夫ね」

「ええ、大丈夫。帰って鏡見てください」

 

 

恐らく悲鳴あげるだろうな。

 

てか、頑丈過ぎる。
あれは絶対痛いはず。

受け身なしの前のめりだもん。

やっぱり神経がおかしくなってるのかも。

 

 

そして伝説へ・・・

 

一軒家の門を開け、玄関に鍵を差し込む。

 

緊張の一瞬。

 

「頼む!開いてくれ!開いたら帰れる!」

 

 

ガチャ。

 

 

開いたーーーーー!!!!!

 

帰れる!帰れる!
これで帰れるぞー!

 

「よかったですね!それじゃあ、お金は頂いてますので。あ、、お釣りか」

と、あらかじめ出しておいたレシートと釣り銭箱に目線を落としたその瞬間。

 

 

 

ガシッ!!

 

 

 

 

物凄い力で腕を掴まれた。

 

 

「・・・っ!?」

 

 

怖すぎて声も出なかった。

 

 

「ねえ??」

 

 

「は、、はい?」

 

 

「上がっていかないの?」

 

 

「へ???」

 

 

「入って」

 

 

「な、、、なんでですか?」

 

 

「いいから入って!」

 

 

「いえいえ、入らない、、ですよ」

 

 

「いいじゃーん、入ろうよー」

 

 

「だから入らないです」

 

 

「えー!なんでー!?」

 

 

「なんで入らなきゃいけないんですか?」  

 

 

「じゃあ、しないのー??」

 

 

「な、何を???」

 

 

「セックス!」

 

 

 

「は? 」

 

 

 

「セックスしないのー???」

 

 

 

「しないしない!!」

 

 

 

「なんでー??」

 

 

 

「なんでじゃないです!」

 

 

 

「しようよー!ねーえ!」

 

 

 

「しない!絶対しない!もう帰ります!」

 

 

 

「しようよー、パパー」

「パパじゃねえ!!」

 

 

さすがにもう付き合ってられないので、腕を強引に振りほどいた。

女はその勢いで家の中にフラフラと入って、座り込んでしまった。

 

急いで車に戻り、すぐさま走り出す。

そして迎えた午前3時の帰庫時刻。

結局、貴重な深夜割増の営業は一件のみ。
とにかく時間を取られ過ぎ。

なのでパパが投げ込んだ2万円は、迷惑料込で全額いただく事に。

 

お釣りを渡すことさえ忘れて逃げてきた。

とても足りないけど。

 

営業所に戻ると、

「あれ?ワイシャツに血がついてるよ!どうしたの!?」と同僚。

「ああ、ちょっと色々・・・」

何をどう話せばいいのかわからず、ごまかした。

 

 

 

 

 

以上でーす。

 

やっぱり書いておくというのはいい事ですね。
記憶の鮮度が落ちない。

パパの出で立ちも女性の唸り声も流血シーンも、今でもまだ鮮明に覚えてますもん。

だから怖い。

タクシー運転手時代。
友人から最もよく聞かれた質問、

 

「お客さんとイイ感じになったりとかないの?」

 

要は”エロいこと出来たりする?”ってやつ。

「支払いはカラダでいいかしら」的な。

もちろん毎回「そんなAVみたいな事あるわけない」って答えてたけど、最もそれに近付いた瞬間はよく考えればこの時だったかも。

AVというよりはホラーかミステリーだけど。

ヤバかったなぁ。

本当にあの女性は何だったんでしょうかね。
老紳士と何してたのか。

 うーん。

 

でももう15年近く昔の話ですし。
今でも小岩で元気に暮らしてると思います。
(考えるのをやめる)

もっとぶっ飛んだ事になると思われた方。
すみませんね。
現実はこのくらいが精一杯です。

でも個人的にはもう十分。

あれ以来、どんなお客さんが来ようが何が起きようが「怖い」とは感じなくなりましたね。

 

恐らく衝撃の大きさでは人生最大級です。

長々とありがとうございました。

 

次回はこちら→24歳で脱サラしてタクシー運転手になった話11 嫌なお客さん!の巻

 

それではでは、こぼりたつやでした。